14.名ぞつらき長月くもる秋の夜の はれぬ思にあられふるころ

 (釈)名月の名前がないてしまう黒く曇った秋の夜の月、憂鬱な心に霰(あられ)すら降ってくる。

忠廣公解説

 同じ年の十三夜、名月がいちめんの雲に覆われた後に読んだ。この憂鬱な奥里は九月

のこの頃より、もう霰降る里となったので、この事を知らせんがために書いたものであ

る。

*陰暦の九月は太陽暦(新歴)だと十月である。ほぼ1カ月ずれると考えればよい。

 

15.うすくこくところどころにふる雪も 月の影にやあらわれぬらん

 (釈)ここかしこに、うすくこく、うきよの空で汚れて降る雪も、月の光に洗われ清浄になって降っているのだろう。

忠廣公解説

  同じ年の十月九日の夜、月を見て、汚れたうきよの空なので、こう思い続けて書いた。

 

16.あら玉りかすみはれゆく都路に 千とせをかさね萬代の道

 (釈)年が改まると霞がはれていった都路に、千年もの長い年月を経てきた永遠に続く道が現れる。

忠廣公解説

  同じ年の十二月二十一日、このように思い続けて書いた。

*はっきりした罪名もなく断罪され改易となった忠廣公の目には、徳川幕府は霞がかかっ

た得体のしれない存在に映っている。来年年が変われば、古来から続く正義が戻ってくる、

そして自分たちはゆるされて世に出ることができる、と祈りとともに考えていたのであろう。

歴史に忘れ去られた加藤清正の嫡男、加藤忠廣公の赤裸々な心の内が余すところなく語ら

れているこの歌集を、歴史家がほとんど顧みてこなかったことを、いまさらながら口惜し

く思うのである。(加藤注)