2018.08.18 加藤清正歴史研究会
加藤忠廣「塵躰和歌集」全訳(48)英数研究セミナー加藤敦
同廿一日
197.五月けふ空もひとつに雨のには 山ざと野邊もおなじうき雲
(さつききょう そらもひとつに あめのにわ やまざとのべも おなじうきぐも)
(釈)五月の今日、空も地も一つになった我庭にも、山里野辺と同じ厚い雨雲に覆われている。
忠廣解説
この哥の作意 雨がいたく降る景色を見ていると、夏の中雨も絶え間なく降って、山も村里も、空と野辺の見分けがつかないありさまである。雨雲が厚く覆い、山も村里も濡れそぼっているのを見て詠んだ塵躰和歌集の心である。
同廿二日
198.まことなき人の心をまつの葉に かゝる月をもながめぬるかな
(まことなき ひとのこころを まつのはに かかるつきをも ながめぬるかな)
(釈)うわべだけの人のこころを待つの葉を、照らす月を眺めていたことよ。
忠廣解説
この哥の作意 同じ五月十五日の夜、ある人の方に物を云い伝えさせていたが、待てども何の音信もなく、いたく夜が更けていったが寝られずに起きていた頃、月が高く出ているのを眺めながらこの哥を詠んだのである。
訳者解説
忠廣公を待たせた人物が誰なのかは分からないが、忠廣公は当然すぐに返事が来るものと思いこんで待っていたのであろう。改易後の忠廣公の人生が、唯待つという苦難に耐えることであったことの、これは小さな挿話であろう。
この稿続く
平成30年8月18日