寛永十癸(みずのと)酉(とり)年六月五日

(211)靏が岡つるはつけどもはしもなし かねぞふる寺こゑもきかなく

 (つるがおか つるはつけども はしもなし かねぞふるてら こえもきかなく)

(釈)鶴岡で買い求めた金属の花入れは、蔓はついているが肝心の鶴のくちばしがない。かねも古寺のように古びて鶴の声も聞こえそうにない。 

 

忠廣解説

 この歌の作意。靏が岡辺りで、唐金の(青銅の)水入れを、蔓の付いた花入れめいたものを買い求めた。古い物で付いていた口も落ちてなくなっていたので、そのことを購入した所の名前を読みいれたものである。

 

訳者解説

 忠廣公が供を連れて鶴岡の街を散策しながら古物屋の軒先で古びた花入れを買い求めたことが記録されている。当然周りの目立たぬところで監視の役人の目が光っていただろうと思われる。のちに妻となる従姉妹のしげさんとその姉も一緒だったかもしれない。

きわめて抑制されたものとはいえ、忠廣公にはたまさかの自由は許されていたように見える。

 

(212)花にたづもめでてやきつる靏つきを たまをいつけてねをとめにけり

 (はなにたづも めでてやきつる つるつきを たまをいつけて ねをとめにけり)

(釈)花に鶴の絵も添えて焼いた蔓付きの花入れに、鉛の球を鋳付けて隙間をふさいだ。

 

又直し歌がある。

213)花にめでてき靏物からつるつきを たまづさ色をつけてとどむる

  (はなにめでてき つるものから つるつきを たまづさいろを つけてとどむる)

(釈)花が好きだった。藤などの蔓物を入れた蔓付きの花入れをいろいろに彩色し、大切にした。

 

忠廣解説

 この歌の作意。前の玉章の歌に関してこの歌も蔓付きの花入れに寄せて詠んだものである。その花入れ口を落とした後を、鉛の玉を使って鋳ふさぎ、いろいろに色を付けて楽しんでいると面白くなって花入れに惚れ込んでこう歌ったのである。

訳者解説

壊れた陶磁器などを修復する手法として、「金継ぎ」が有名だが、忠廣公も古い物を大切にし、修復することを当然のこととして楽しんでいる姿がしのばれる。そうして出来上がったものが別個の新たな作品として歓迎されているようである。

令和4613

この稿続く