同九日

216)はじとみに物ゆふがほの白き花を 友とながむる色もすずしさ

  (はじとみに ものゆうがおの しろきはなを ともとながむる いろもすずしさ)

 (釈)半蔀から、もの言いたげなほの白いゆうがおの花が垣根に咲いているのを、友と二人で見ていた。花色の涼しさ、夕暮れの涼やかさとともに。

忠廣解説

  この歌の作意、同じ六月三日頃の日暮れの頃に、垣根に白い夕がおの花が咲いていた。花の白い色がひときわ清らかに見え、眺めていると夕暮れもすずしく、そのことを面白く思い、言葉続きにこう書いたのである。

 

訳者解説

 「友とながむる」とある、「友」とはだれかというと、酒井忠勝公であろう。庄内に来て一年、公務もなく、外出もままならない忠廣公に友などいるはずもない。

大名である忠廣公が友と呼ぶ人は、大名であろう。一か月に五度様子伺いに来ていた忠勝公とはよき友となっていたに違いない。忠廣公も忠勝公が来るのを楽しみにしていたであろう。

だから、二人の友人同士の大名が、暮れかける夕暮れ時に、垣根にほの白くもの言いたげに、すずしげに咲いているゆうがおの花を、半蔀の中から眺めている姿がそこにはあった。

 

同十日

217)さき出し花見てしにもこうばしみ 袖恋しやとゆふがほの色

  (さきいでし はなみてしにも こうばしみ そでこいしやと ゆうがおのいろ)

 (釈)思いがけない処に咲きだした花を見たからこそ、こうばしみ人があなたの袖が恋しいと、もの言いたげな夕顔の花と見えた。

忠廣解説

  これは、六月三日の夕方に、夕がおの花が垣根に、思いがけないところに咲いているのが特に心を引き、このような所にも偶然に花が咲きだすことがあるのだと、もの言いたげな夕がおの花を見たのだから、恋しい人に会うことができれば、と思う心で詠んだものである。

訳者解説

 この歌は前作と同じ日、忠勝公と一緒にゆうがおの花を見ながら、忠廣公はこんなことを考えていた。「こうばしみ」とあるのは法乗院の事である。

思いがけないところで夕顔の花が、忠廣公にもの言いたげに咲いていた。この「思いがけなさ」に忠廣公はすがったのであろう。だから、偶然に最愛の妻に会うこともがな、と。

 

令和4616

この稿続く。